突然ですが、「もう若くないな」と感じた瞬間を、覚えているだろうか。
私の場合、その瞬間は思いのほか地味だった。
プチポテトを食べ切ったら胃がムカムカした、という話だ。
夕方の16時すぎ。仕事の疲れが出始める時間帯。売店に行き、いつものコンソメ味のプチポテトを取り出した。開封する。数枚食べる。
そこで、手が止まる。
「……なんか、もう十分かも」
まだ袋の半分も食べていない。昔だったらこんなことはなかった。気づいたら空になっていたのに。
多少の違和感を感じたまま食べ進め、結局全て食べ切る。
なんでもないことなのに、なぜかちょっと、悲しくなった。
あ、これが「歳をとった」ということか。と思った。
胃もたれと向き合う、という面倒なこと
正直に言う。
最初は「なんか今日は疲れてるだけだろう」と思った。
でも翌週も、その翌週も、プチポテトを食べると胃の入口あたりがじんわりと重くなる感覚が続いた。深夜にラーメンを食べた翌朝のような、あの鈍い重さ。それが夕方、デスクの前で、35gのスナック菓子から発生するようになっていた。
「やっぱり歳のせいかな、、、」と口に出しかけて、やめた。
30代でそれを言うのは、なんかまだ早い気がした。
でも「じゃあなんで」と思って、ググってみた。そうしたら、思いのほか明快な答えが出てきた。
プチポテト1袋(35g)の脂質は、13gを超える。カロリーの6割以上が脂質だ。
脂質は消化に時間がかかる。そして30代後半になると、胃の処理速度が少しずつ落ちてくる。20代のときとは違う。あの頃の胃はもう少し大らかだった。何を入れても、翌朝には元通りになっていた。
今の胃は、もう少し正直だ。
負荷をかけると、ちゃんと返事をしてくる。それが胃もたれというサインだった。
「プロテイン」という言葉への、長年の偏見
さて。ここから先が本題になる。
「じゃあプロテインでも飲んでみたら」と、誰かに言われたとしたら、あなたはどんな顔をするだろうか。
私は、反射的に「いや、自分には関係ない」と思うタイプだった。
プロテインは、筋トレをする人のものだ。週3でトレーニングをして、タンパク質の摂取量を計算して、早起きして鶏胸肉を食べているような人のものだ。私みたいに、夕方の小腹対策を考えている、ただのデスクワーカーのものじゃない。
そう思っていた。
だから最初に「ソイプロテイン」のことを調べたのは、完全に偶然だった。何かの記事でたまたま見かけて、ちょっと気になって検索しただけ。
でも、読み進めるほどに、「あ、これ自分のためにあるやつじゃないか」という気持ちになっていった。
ゆっくり吸収される、ということの意味
ホエイプロテインとソイプロテインの違いを理解したときの感覚は、今でも少し覚えている。
ホエイ(乳由来)は吸収が速い。飲んで1〜2時間で吸収される。だから運動直後に飲むと筋肉への効果が高い。
ソイ(大豆由来)は吸収が遅い。5〜6時間かけて、ゆっくり吸収される。
これだけ聞くと、ホエイの方が優秀に聞こえる。でも「間食として夕方に飲む」という文脈では、話が逆になる。
吸収が遅い、ということは、腹持ちがいい、ということだ。
夕方16時に飲んでおけば、そのじわじわとした満足感が、夕食の18時、19時まで持続してくれる。おなかが空きすぎて、帰り道のコンビニで余計なものを買う、あの衝動が静かになる。
しかも、糖質をほとんど含まないから、血糖値を急上昇させない。あの「食後15分で急に眠くなる」感覚(昼にラーメンを食べようものなら、、、あの崩れ落ちるような眠気)が、起きにくくなる。
「あ、これは間食のための飲み物だ」と、腑に落ちた。
筋肉のためじゃなく、夕方の自分を整えるための、道具だった。
「無添加」にこだわった、少し面倒な理由
プロテインを買おうと決めて、商品を調べ始めた瞬間、少し途方に暮れた。
種類が多すぎる。チョコ、バニラ、いちご、カフェオレ、抹茶……甘い味のものが山ほどある。飲みやすさを追求した、カラフルなパッケージが並んでいる。
それぞれの成分表を見ていくと、ほぼ全てに人工甘味料が入っている。スクラロース、アセスルファムK、アスパルテーム。
「安全性に問題はない」とされている成分たちだ。でも、腸内環境への影響については、まだ研究が続いている部分がある。そしてこれは「たまに飲むもの」ではなく、「毎日飲むもの」だ。毎日、積み重なっていくものについては、少しだけ慎重でありたかった。
それに、人工甘味料特有の、あの後味のあまさみたいなものが、どうも好きになれなかった。飲むたびにそれを感じたら、体に悪そうな気がしてきっと続かない。
だから、「無添加」にした。
プレーン味の、大豆の粉末をそのまま水に溶かしたようなもの。甘くない。お世辞にも美味しいとは言えない。豆腐を溶かしたお湯を飲んでいるような、素朴な味。
でも、不思議なことに、「これでいい」と思った。
ソイプロテインにココアを混ぜて味変するのも良い。やっぱり違うものが飲みたくなったら、コーヒーを飲めば良い。おやつが食べたいなら、食べれば良い。
そう割り切ったら、案外するっと続けられた。
一番のハードルは、栄養でも味でもなかった
プロテインを始めて最初につまずいたのは、驚くべきことに、「職場で飲む恥ずかしさ」だった。
自宅で飲む分には何も問題ない。でも間食としての意味を最大限に活かすなら、夕方の職場で飲む必要がある。
これが、思っていたより心理的なハードルが高かった。
デスクで粉末をシェイカーに入れて、シャカシャカと振る。その一連の動作を、周りの目がある中でやる、ということへの抵抗感。
誰かに何か言われたわけじゃない。「意識高い系やな」とか、そういうことを言う人は、周りにはいない。でも「思われるかもしれない」という感覚が、じわりと邪魔をしてくる。
日本のオフィスというのは不思議な場所で、直接批判されるわけではないのに「普通であること」への圧力がある。突出した何かをすると、説明を求められそうな気がする。「それ何?」と聞かれるのが、面倒くさい。
健康習慣を続けられない理由の多くが、こういう「地味な心理的摩擦」だと思う。
栄養の知識でも、意志の力でもなく、「なんとなく続けづらい空気」が、習慣を壊す。
黒いシェイカーを使ってみた
解決策はあっけなかった。
黒いシェイカーを買う。それだけ。
探してみると、不透明で、マットブラックの、どこからどう見てもただのタンブラーにしか見えないシェイカーがあった。
これをデスクに置いてみた。
誰も何も言わなかった。
元々タンブラー持参で、職場のウォーターサーバーで水を入れて飲んでいたので、周りからはタンブラーを変えたのかな、くらいにしか思われてなかったんだと思う。
その瞬間、気が楽になった。
家からタンブラーにプロテインを入れて持参し、夕方頃に職場で水を入れるだけ。
多少人目を気にしながらシェイクしたりはするが、デスクで見れば飲み物を飲んでいるだけだ。
健康のために何かを始めるとき、人はよく「意志の力」を問題にする。でも実際のところ、習慣を継続させるのは意志よりも環境だ。「続けやすい状況」を作れれば、あとは自然と続く。「続けにくい状況」を放置すれば、どんなに意欲があっても、少しずつ消耗していく。
たかがシェイカーの色で、夕方のルーティンが定着した。
1ヶ月続けて、変わったこと・変わらなかったこと
劇的な変化は、正直なかった。
「体が生まれ変わった」とか、そういう話を期待していたなら、がっかりさせてしまうかもしれない。
でも、じわじわとした変化はあった。
夕方の「謎のだるさ」が減った。16〜17時ごろに訪れていた、あの頭が重くなる感覚。血糖値の乱高下が落ち着いたからだと思う。集中力が、多少持続するようになった。
間食が減った。お腹がある程度満たされた状態なので、とりあえず何か食べたくて売店に行く、みたいなことが減った。夜の胃もたれも、ついでに減った。
そうは言ってもたまにお菓子は食べる。食べたいときは食べる。ただ、「デフォルトの間食」ではなくなった。
30代の体は、「正直」になってきている
30代の体は、「正直」になってきていると思う。
20代のときは、何をしてもそれなりに回復してくれた。深夜に食べても、寝不足でも、脂っこいものを食べ続けても、翌日には大体リセットされていた。
体が正直になってきた、というのは、衰えとは少し違う。むしろ、本来の自分に気付けるようになってきた、ということだと思っている。
30代は食事にも気をつけようと思う。